Aもう駄目かなあ、あゝ、あの立派な御殿が、みす/\焼ける、と私は悲観しかけていました。
ところが、ふとこのとき、私には、素晴しい考えが浮んできました。その晩、私はグリミグリムという、非常においしい、お酒をたんと飲んでいました。火事騒ぎで、動きまわっていると、身体はカッカとほてって、お酒のきゝめがあらわれてきました。私は今にも、おしっこ[#「おしっこ」に傍点]が出そうになったのです。そこで、私は思いきって、火の上に、おしっこ[#「おしっこ」に傍点]を振りかけてゆきました。三分間もしないうちに火事はすっかり消えてしまいました。これでまず、綺麗な宮殿は、丸焼けにならないで助かったのです。
火事が消えたとき、もう夜は明けていました。私は皇帝に、よろこびの挨拶も申し上げないで、家に戻りました。私は消防夫として、非常な手柄をたてたのですが、しかし、皇帝が私のやり方をどう思われるか、心配でたまらなかったのです。この国の法律では、たとえどんな場合でも、宮城の中で、立小便をするような者は、死刑にされることになっていました。
しかし私はその後、皇帝から、特別に罪を許すよう取りはからってやる、と、お手紙をいたゞいたので、これで少し安心していました。けれども、それもやはり駄目でした。皇后は私のしたことを、大へん御立腹になり、
「今にきっと思いしらせてやる。」
と、おそばの者に言われたそうです。そして、もとの建物はもう厭だから、修繕させないことにされて、宮中の一番遠い端へ引っ越されました。
さて、私はこゝで、リリパット国の風俗を少し説明しておきたいと思います。
この国の住民の身長は、平均して、まず六インチ以下ですが、その他の動物の大きさも、これと、正比例して出来ています。まず一番大きい牛や馬でも、せい/″\四インチか五インチぐらい、羊なら一インチ半ぐらい、鵞鳥なんか、ほとんど雀ぐらいの大きさです。だん/\こんなふうに小さくなってゆきますが、一番小さな動物など、私の眼では、ほとんど見えません。
ところが、リリパット人の眼には、非常に小さなものでも、ちゃんと見えるのです。彼等の眼は、こまかいものなら、よく見えますが、あまり遠いところは見えません。
雲雀は普通の蠅ほどもない大きさですが、リリパットの料理人は、ちゃんと、その毛をむしることができます。それから私が感心したのは、若い娘
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