A詩の話もよく出ます。私はヨーロッパで一番偉い人たちの集まりに出るよりも、ここで、フウイヌムの話を開いている方が、ずっと誇らしく思えました。
私はこの国の住民たちの力と美と速さを感心しました。そして、このような穏やかな、立派な人格を、私はだん/\尊敬するようになりました。
そして私は、自分の家族や友人、同胞などを考えてみると、とてもひどく恥かしくなりました。ヤーフと私たちが違うのは、たゞ人間の方は言葉が話せるということだけで、理性はかえって悪いことに使われています。よく、泉や湖にうつる自分の姿を見たときなど、私は思わず顔をそむけたくなりました。
4 ヤーフ君、お大事に
私はこの国にいつまでも住んでいたい、と思うようになりました。ところが、どうしても、この国を立ち去らねばならぬことがもちあがりました。
この国では、四年ごとに全国から、代表者が集って、会議を開くのです。この会議は野原で、五六日つゞけられます。私の主人も、今度その会議に、代表者として、出て行ったのです。
ところで、今度の会議で問題になったのは、ヤーフをこの地上に生かせておいて、いゝか悪いかという問題でした。
一人の議員は次のように演説しました。
「およそ、世の中にヤーフほど、不潔で、いやらしいものはない。彼等はこっそり、牛の乳を吸うやら、猫を殺して食べるやら、畑を荒すやら、ろくなことはしない。
このヤーフというものは、もとからこの国にいたものではない。伝説によると、あるとき、突然、山の上に二匹のヤーフが現れたという。これは、太陽の熱で腐った泥の中から生れたものかどうか、よくわからないが、一度生れて来ると、子供がずん/\ふえて、たちまち全国にひろがってしまった。
そこでフウイヌムたちは大山狩をして、ヤーフたちを取り囲み、年とったものを殺してしまい、若いのだけ、フウイヌム一人について二匹ずつ、小屋を作って飼うことにした。そこで、あばれものゝ動物も、少しは馴らされ、とにかく物を引かせたり、運ばせたりするくらいの役には立つようになった。
しかし、住民たちは、ヤーフを使っているうちに、ついうっかり驢馬をふやすことを忘れてしまった。驢馬はヤーフにくらべて、すばしこくはないが、その代り形もいゝし、おとなしくて、臭くもない。われ/\は、あのいやらしいヤーフは殺して、その代りに驢馬を使った方
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