ェいゝと思う。」
 これには賛成したものも大分ありましたが、私の主人は反対の意見をのべました。
「二匹のヤーフが山に現れたという伝説は、こんなふうに考えられる。あれは、確かに海を越えて、向うからやって来たもので、二匹は上陸すると、そのまゝ山の中へ逃げ込んだものらしい。それから時のたつとともに、だん/\野蛮になって、とう/\、あんなふうな動物になってしまったのだと思われる。その証拠には、私は不思議なヤーフを一匹持っている。」
 こういって、主人は、私を見つけたときのこと、洋服を着ていること、この国の言葉をおぼえてしまったこと、この国へ来るまでのことを自分で話して聞かせたことなど、いろいろ説明しました。
「こんなふうな、おとなしいヤーフもいるのだから、ヤーフをみな殺しにするのは可哀そうだ。それより、ヤーフの子供をふやさないようにして、驢馬の子をうんとふやすようにしたらいゝと思う。」
 と私の主人はこう演説したのでした。
 私はこの会議のことを主人から聞かされて、なんだか心配になりました。ヤーフをどうすることに決まったのか、それはまだ、はっきり聞かせてもらえなかったのです。
 ある朝、主人から迎えの使が来ました。行ってみると、主人は、どうも何から話し出したらいゝのか、困っている様子でした。が、やっと口を開いて言いました。
 それによると、今度の会議で、私はこの国から出て行ってほしい、ということに決まったのです。
 ヤーフを家に置いて、フウイヌム並みに扱っているとは実にけしからん、と主人は代表者たちから苦情を言われました。普通のヤーフのように働かすか、それとも、泳いで国へ帰らすか、どちらかにせよ、と言われるのです。だが、私を普通のヤーフの仲間に入れたら、ヤーフたちをそゝのかして、夜になると家畜をおそったり、どんな危険なことをやりだすかわからない、というので、やはり泳いで国へ帰らせた方がいゝと決まりました。主人は私に同情して、
「私はむろん一生でも喜んでお前を置いてやりたかったのだが、どうも仕方がない。泳いで帰るといっても、まさかお前の国まで泳げもすまい。だから、いつかお前の話した、海を渡る容れものをひとつ作ってみてはどうか。それなら私の召使や近所の召使にも手伝わせてやる。」
 私は主人にこう言いわたされると、悲しくなって、彼の足許にふら/\と倒れました。主人は私が死んでしま
前へ 次へ
全125ページ中116ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング