」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]返事をする被告が何処にあるでせう。貴方にもをかしいでせう。あつけに取られた様な法官の顔を見たら急に気の毒になりましたの。此処は命がけの真面目許りの外《ほか》這入られない席だのにと思ひましたら私ももう笑へなくなりました。それから真面目な問答が続いたんですの。私が腕一本と胎児と同じだと云つた事が許すまじき危険思想に響いて居るんですねえ。私は成るべくなら判つて貰ひたいと思つて随分云ひました。
「何故胎児が附属物だ」
 と云ふのに答へて私は
「腕は切り離しても単独に何の用も些《すこ》しの生命も持ちませんが胎児は生命を持ち得ると云ふ相違丈けはあります」
 と一寸語を切ると大急ぎで此処を逃かしてはと様に切込んで来様としますから私も直《ぢき》語を続けましたの。
「後に生命を持ち得るからこそ恁《か》うしなければならなかつたのです。何時迄経つても生命も人格も持たないものなら其儘にして置いても何の責任感も起らないのですが、私の体を離れると同時にもう他の主宰から離れた一箇の尊い人命人格を持ち得るのですから。然もそれ等を支配する能力――奥深く潜んだ其箇人独特の能力
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