れゝば罪人だと云ふ事は知つて居ました。そして私の行為が刑法に触れてる事も知つて居ました」
 と答へましたの。すると何故自首しなかつたと云ふのでせう?
「罪を認めて居るものは法律で私ではなかつたからです」
 と云ひますとね、法官もゑらい事を云ひましてよ、此言葉丈けには感心しました。
「法官が知らなくとも法律に触れてる事実を怎うする?」
 と云ふのです。実際さうです。知つても知らなくとも事実は事実ですものね。其時私は
「それは法官の御手腕に任せます。私には只だ法律より私の信念の方が確かなのですから私自身では私の信念に動く外仕方がありません。然し今度は法律が私の方へ働きかけて来る時、事はそちらのお話になります」
 と云ひましたの。
 私の判決は怎うなるか分りません。怎うなるか……けれど私の信念には少しも動揺がないのですから。それに私の行つた事実にも変りはないのですから。貴方は何にも悲しまないで下さるでせう? そして一生懸命お仕事をして下さい。私の分も。

     四

 今日は頻りに宅の部屋の様子が目に見えます。私が居なくなつた日から貴方は部屋を掃いた事がないでせうね。床も敷きつぱなしでせ
前へ 次へ
全14ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
原田 皐月 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング