ら、新聞を買つた。ストリツプシヨウの踊り子の腰みの[#「みの」に傍点]に、ローソクの火が燃えうつゝて、全身やけどをした記事が大きく載つてゐた。写真の女は若かつたが、里子と同じ年齢で、人妻であつた。S橋のつるつるした石の欄干寄りを歩きながら直吉は、このやうな女の生活もあるのかと思つた。自分の裸身を売りものにして、良人を養つてゐたのかもしれない。踊り子は、医者の談によると、助かりさうもない様子だつた。直吉はその踊り子の良人の、呆んやりした顔をしつゝこく考へてゐる。狭い階段を、踊りながら降りてゐた踊り子の腰みのに、ローソクの火がぱあつと燃えついたのを、下から見上げてゐた客は、それがさうした踊りの手なのかと、裸の焼けるのをうつとり眺めてゐたさうだが、キヤバレーと云ふものを、直吉は、一度ものぞいた事はないので知らなかつた。
底本:「林芙美子全集 第十五巻」文泉堂出版
1977(昭和52)年4月20日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※片仮名の拗音、促音を小書きするか否かは、底本通りとしました。
入力:林 幸雄
校正:
前へ
次へ
全83ページ中82ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング