人と茶を飲みにはひつた直吉は、こゝで里子の姉である冨子を知つた。――冨子はその頃十八で、色の浅黒い大柄な女だつた。もう一人は二十三四だとかで、これはあまりぱつとした女でもなく、陰気だつたので、冨子の方がかへつて目立つてゐた。鏝焼けのした、まつかな髪を振り乱して、垢染みたポプリンのワンピースを何時も着てゐたが、大柄で肥つてゐたので、洋服なぞは皮膚の一部のやうに見えた。直吉はかうしたかまはない冨子が好きで、時々冨子の喫茶店へ無理をして通つて行つたが、或日、冨子が二階へ上れと云ふので、直吉が二階へ上つて行くと、針箱を拡げた狭い部屋の中で、冨子は、もう一人の波江と云ふ女とあみだ[#「あみだ」に傍点]を引いたのだと、新聞紙にたいこ焼きなぞを拡げて食べてゐるところであつた。波江は窓のそばで横坐りになつて、雑誌をめくつてゐたが、二人が二階へ上つて来ると、口をもぐもぐさせながらあわてて縫物を片寄せてくれた。押入れが明けつぱなしで、下の押入れの行李の上に、黄いろいしごき帯をした女の胴体が見えた。驚いてその方を眺め、押入れに誰か這入つてゐるのかと直吉が尋づねると、冨子が、くすくす笑ひ出した。「あンた、妹が
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