瑪瑙盤
林芙美子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)門番《コンゼルジエ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)|小さい《プチツト》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定)
(例)しのびなき[#「しのびなき」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)カサ/\した
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1 ミツシヱルは魚ばかり食べたがる女であつた。
魚屋の前を通ると、牡蛎籠の上に一列に並んでゐるレモンの粒々に、鼻をクンクンさせたり鮫の白い切り口を、何時までも指で押してみたりしては買へもせぬ癖に、何か口の中でブツブツものをいひながら、立ちつくしてゐることがあつた。
ミツシヱルは南フランスの生れで、髪は南国風に黒つぽい色をしてゐる。
「|小さい《プチット》|お嬢さん《マドモアゼル》! 私しのびなき[#「しのびなき」に傍点]」
寒子のアパルトへ来ると、かうして泣いて見せるのが、ミツシヱルの得意である。
「又、しのび泣きなの、困るわね」
ミツシヱルは、寒子の描きかけてゐる画架に凭れると、暫時は、しのびなき[#「し
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