になる男の子だけれど、どつちもいゝ子でまるでいゝところの子供みたいに言葉つきがよくて、親孝行なので吃驚してしまう。わたしが、どんなに夜おそく戻つて来てもおばさんは小言一つ云わないし、自分の子供と同じようにしてくれるので、わたしはこんなきれいな心持ちのひとは珍らしいと思つた。
わたしはホールで或る会社員と知りあいになつた。そのひとは少しも踊らない。つれの人と来て、いつも呆んやりと人の踊りをみている、或日、偶然、八重洲口の駅の前で逢つて、しばらくお茶をよばれながら話した。ジャワへいつていて、このごろ復員したばかりで、まだ何処にも勤めていないと云つていた。かえつてみたら、奥さんはよそのひとゝ一緒になつていて、家は焼けてしまい、いまは友人の家に同居していると云うことだつた。此世は面白いこともなければ哀しい事もない、もう、偶然だけを頼りに生きているようなものだと云つていた。むずかしい事は判らないけれども、人生に遠くおきざりを食つている自分は、いつまでも苦しい二日酔いのような毎日だとも云つた。わたしはさみしかつたので、この関と云うひとがすぐ好きになつた。関は痩せて背が高く、青黒い顔をしていた。逢
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