食べに行つて顔みしりだつたので、おばさんは心よく泊めてくれた。渡る世間に鬼はないと云うけれど、わたしはこゝからホールに通よつて行つた。栗山はそのころ、他のホールに変つていた。わたしはそのホールに逢いに行つた。栗山は、「君に、そんな事を求めるのは無理かもしれないけれど、僕は利己主義でけつぺきだから、一緒になるのは困る」と云つた。栗山と云う男は、只、夢みたいな事にばかりあこがれている。一緒になるのが厭だと云われると、わたしは、かえつて心のなかゞ勇みたつような気がした。わたしは二カ月位も栗山とは逢わない。そのくせ、栗山とは何でもなかつただけに始終こゝろにかゝつて思い出されて仕方がない。わたしは、ずつと小山には逢わなかつた。逢いたいとも思わない。わたしは二三度、違う男と田舎の宿屋に泊りに行つたけれど、このごろになつて、何だか、自分はもう悪い女になつているような気がされて時々、こゝろの中に寒々とした風が吹きこんで来るような気がする。おばさんも、このごろはすつかりわたしのかつこうが変つたと云つた。六畳二間きりのじめじめした家だけれど、わたしはこの家がすつかり気に入つた。子供は、十四になる娘と、十二
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