は身動きも出来ない程躯がうずいた。鏡をみていると、わたしのまつ毛が人並はずれて長いのがうれしかつた。頬骨が少したかいけれど、唇は肉づきが厚くて紅を塗ると、何だか西洋人のように見えた。皓い大きい前歯と、人並はずれて大きい乳房、ほんの少し通つたホールの女達よりもわたしは何だか、自分の方がきれいなように思えた。ダンス教師は、わたしの足をみて、随分いゝ脚をしているとほめてくれた。志願した女達のなかでも、わたしは背が高い方だつた。わたしはあのホールの華かな景色が忘れられない。こんな汚いアパートにいて、年をとつた男と、きたない蒲団に、一つの枕で寝るのはつくづく厭だと思つた。栗山が、わたしの事を、神様が皮肉なつくりかたをした女だと云つたけれど、わたしは、こんな処にじつとしていられない気持ちだつた。わたしは何かこみいつた事を考えるとすぐ躯じゆうがむずがゆくなる。考える事は厭だ。二三日[#「二三日」は底本では「二二日」]して家を出てしまつた。いつも駅の前におでんの屋台へ店を出しているおばさんの家を知つていたので、わたしはそこへ行つた。おばさんは子供が二人いて、自動車の車庫の裏に住んでいる。何度もおでんを
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