せた。田舎から出て来て、小山と生活をするに到つた話をすると、栗山は驚いたような表情で、「君はそんな無智な女なのかねえ、君をみていると、いかにも悧巧そうな、インテリジェンスが感じられるが、これは神様の皮肉だね。君は世の中を甘いと思つているだろうが、危険な生活だね」と云つた。だけど、こんな世の中になつて、何カ月かを東京で暮してみると、みんな、わたしと似たりよつたりの女が多いのだ。栗山を駅まで送つて行くと、駅でわたしは大きい風呂敷包みをかついだ小山に逢つた。栗山はさつさと行つてしまつた。わたしはアパートにかえつてさんざん小山に叱られた上、髪の毛を握つて、打つ蹴るのひどい仕打ちをうけた。そんな事をされると、わたしは急に小山が厭になつて来て、ぞつとするような肌寒い気持ちになつた。わたしは出て行くつもりで、外套を引つかけると、小山はいそいでわたしを押したおして、腹を二三度蹴つた。わたしは背中が割れるような痛さを感じた。寝床へ引ずり込まれると、小山はわたしのパアマネントの髪の毛をじやくじやくと鋏で切つて[#「切つて」は底本では「切つ」]しまつた。わたしは腹が痛いのでじつと眼をつぶつていた。――二三日
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