粧をすると、妙に老けてみえる」と云つていた。わたしは、強い化粧をしないではいられない。前のホールでは、マネージャがわたしの事をインコちやんと呼んでいた。
躯の工合がますます悪いので、このごろはホールも休みたくなつて来る。ホールを休むとわたしは御飯も食べないで一日じゆう寝ている。おばさんは心配して、食物をつくつてくれるけれど、少しもほしくない。このごろ、わたしは煙草を吸う事をおぼえた。自分はだんだんいけない女になると思いながら、どうにも自省する事が出来ない。何か考えごとをすると躯がむずがゆくなるので、わたしは一日中寝て、夜更けて退屈すると、一人でトランプをする。一人占いをしていると、いまにも幸福な事が来そうな気がする。きれいな結婚が出来るような気がして来る。陽のよく射す明るい家で、わたしは可愛い、赤ん坊を産む。そんな事を考えるけれど、すぐ、また、ホールの音楽の音色が耳について来る。仲間の友達も、あのホールのなかで、男のひとにだまされたり、だましたりの暮しだけれど、どの女も、たいていはだまされたりの方で、案外、純情で気のいゝ女が多い。このごろホールに、わたしを好きで来る人が一人ある。何の
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