あれは、わたしたちと違つて、たつぷりとした金持ちの娘に違いない。わたしは鏡をのぞきこんで、世の中のまともな女たちとはどこか違うことを感じた。わたしたちの様子はわたしたちの仲間だけで派手に目立つような化粧のしかたになつて来る。眼のふちに墨を入れて、唇いつぱいに紅を塗る。このごろはクリームのいゝのがないので、食用油を背中や脚に塗る娘もいて、天ぷら臭いのでいやがられる。わたしは、セロファンのように薄い服を着て、みるからに、昔、田舎にも来ていた事のあるサアカスの女になつたような気がしてくる。ホームで美しい女のひとを見てからは、自分がきたなく見えて来るようで淋しかつた。首にガラスの首飾りをして、手首にメッキした金色の蛇の輪をはめて桃色の紙のようなドレス。髪に大きい水色のリボンを結んで、耳輪は青いねり玉、指輪はルビー。靴は仲間のローズに世話をしてもらつて、やつとの思いで買つた中古の黒革のハイヒール、或る男が、わたしのことを、初荷の馬だねと云つたけれども、その時に意味が判らなかつたけれど、あとで、その意味をきいてとても癪だつた。よく栗山が、「君は化粧しない時の方がずつといゝよ。柄が大きいンだから、化
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