ことに大吉郎がこまめにしてくれてゐる。久江は、へえ、この人も變つたものだと、昔の意張屋だつた大吉郎と考へくらべてゐた。
「お母さん元氣かい?」
「えゝ、お蔭樣で‥‥」
「あのひとは小食だから、躯も丈夫なンだね。――清治は何ヶ月になるかねえ、もう‥‥」
「三ヶ月ですよ」
「遺品のやうなものは何か來たのかい?」
「え、この二日に、部隊の方から送つて來ました‥‥」
鷄が白く煮えて來た。
久江は、生麩がきらひだつた。大吉郎はそれをまだ覺えてゐたのか、紅い生麩が來てゐるのに、その小皿は茶袱臺の下へ置いたまゝだつた。
「實はねえ、清治のことなんだけど、ねえ‥‥」
「へえ‥‥」
「お前さんにはまことにいひづらいンだけど‥‥」
「何ですの?」
「清治に子供があるンで、その話なンだがね」
「まア!」
「いや、さう、きつと、吃驚すると思つた。――清治のことは、お前さん一人が一生懸命骨を折つてゐたンで、こんなことはいへたことぢやないンだが――大學の頃から、ちよくちよく俺の方へ來てくれてゝねえ――家のおそのの親類に福といふ娘がゐて、まア、清治といゝ仲になつたわけだ‥‥」
そのといふのは大吉郎を久江からう
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