ばつた女である。柳橋の待合の女中をしてゐたことのある女だとかで、久江は色の白いそのといふ女を一度、大吉郎が連れて歩いてゐたのを見たことがあつた。
「御冗談でせう! ――そんな、あのひとは、何だつて私に相談してゐましたし、それはまア、あなたのところへ清治が遊びに行つたかも知れませんけれども、――でも、それはおそのさんのいひがかりのやうなンで、お芝居ぢやありませんか。出征する時だつて、あのひとは萬一のことまでちやんといひおいて行つたのですからねえ――その時だつて、あなたのことなんか一言もいはないンですし、おそのさんがおせんべつ持つて來て下すつた時も、たゞ素直に貰つておいたゞけの話で‥‥そんな、そんな莫迦なことを今ごろになつて‥‥」
久江は腹が立つて來て指がぶるぶる震へてゐる。
「いや、そんなに、あんたが怒るのも無理はないさ、無理はないけれど、話は話だ」
清治と福が出來たのを知つたのはそのであつたが、そのは大吉郎には長い間知らせなかつた。久江との問題さへなければ、清治と福の間をうまくまとめてやりたいと思つてゐたのだつた。
「何か、そんな證據でもあるンですか?」
「うん、度々清治から俺のと
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