んだ。
夜はまた雨だ。
その雨の中を奧原氏が、町でも歩いてみませんかとたづねて來られた。
「あなたをお迎へに出て歸つてみたら、留守に、小樽へ轉任の通知が來てゐて愕きました」
「まあ、それはよかつたですね。では町にでも出てお祝ひでもしませう」
長雨になりさうな、しとしとした雨の町を歩いて、轉任でコオフンしてゐられるらしい奧原氏の爲に、さゝやかな料理店を探したが、結局二人とも雨で困じ果てゝ、喫茶店へアイスクリームを飮みにはいる。こゝでは北大の校歌のレコードをかけてゐたが、それは何かいゝ氣持だつた。
根室線へ這入つてから、滿足に天氣の日がない。明日は早朝|然別湖《しかりべつこ》へ行かなければならないのだが、雨では途が絶えると云ふことであつた。
奧原氏に別れて、宿へ歸つたのが九時前。雨だつたら、砂糖大根《ビード》工場に行つてみよう。私は平野も湖も見飽きましたと、友達に書きおくりながら、何故か湖を追つて歩いてゐるやうだ。元氣でゐなくてはいけない。
枕元には、明日行く然別湖のあらゆる姿態をした繪葉書が私を慰さめてくれる。
夜更けに女中が、よく水のあがつた鈴蘭の花を持つて來てくれた。此
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