飛びおきると、新聞に載っている元野夫人の住所を切り抜いて私は麻布のそのお邸へ出掛けて行った。
折目がついていても浴衣は浴衣だけど、私は胸を空想で、いっぱいふくらませていた。
「パンおつくりになる、あの林さんでいらっしゃいますか?」
どういたしまして、パンを戴きに上りました林ですと心につぶやきながら、
「一寸おめにかゝりたいと思いまして……。」
「そうですか、今愛国婦人会の方ですが、すぐお帰えりですから。」
女中さんに案内されて、六角のように突き出た窓ぎわのソファーに私は腰をかけて、美しい幽雅な庭にみいっていた。
蒼っぽいカーテンを通して、風までが高慢にふくらんではいって来る。
「何う云う御用で……。」
やがてずんぐりした夫人は、蝉のように薄い黒い夏羽織を着てはいって来た。
「あのお先きにお風呂をお召しになりませんか……。」
どうも大したものだ、私は不良少女だって云う事が厭になって夫が肺病で困っていますから、少し不良少年少女をお助けになるおあまりを戴きたいと云った。
「新聞で何か書いたようでしたが、ほんのそう云う事業にお手助けしているきりで、お困りのようでしたら、九段の婦人
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