傍点]?」
「樺太から? お前一人で来たのかね。」
「えゝ!」
「あれまあ、お前きつい[#「きつい」に傍点]女だね。」
「長い事函館の青柳町にもいた事があります。」
「いゝ所に居たんだね、俺も北海道だよ。」
「そうでしょうと思いました。言葉にあちらの訛[#「訛」に傍点]がありますもの。」
啄木の歌を思い出して真実俊ちゃんが好きになった。
[#ここから2字下げ]
函館の青柳町こそ悲しけれ
友の恋歌
矢車の花。
[#ここで字下げ終わり]
いゝね。生きている事もいゝね。真実に何だか人生も楽しいものゝように思えて来た。皆いゝ人達ばかりだ。
初秋だ、うすら冷い風が吹く。
佗しいなりにも何だか女らしい情熱が燃えて来る。
十月×日
お母さんが例のリウマチで、体具合が悪いと云って来た。
もらいがちっとも無い。
客の切れ間に童話を書く、題「魚になった子供の話」十一枚。
何とかして国へ送ってあげよう。老いて金もなく頼る者もない事は、どんなに悲惨な事だろう。
可哀想なお母さん、ちっとも金を無心して下さらないので余計どうしていらっしゃるかと心配します。
「その内お前さん、俺んとこへ遊びに
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