十ちゃんも芳ちゃんも仕事を見つけに行ったのか、部屋の中は火が消えたように淋しかった。
 あんな男に金を借してくれなんて言えたもんではないじゃないか。十ちゃんに相談してみようかしら……。
 妙に胸がさわがしくなる。
 あのヴァニティケースだって、ほてい[#「ほてい」に傍点]屋の開業日だって云うので、物好きに買って来た何割引きかのものなのなんだ。そうして、偶然に私の番だったので、くれたようなものゝ、別にあっち[#「あっち」に傍点]からも、こっち[#「こっち」に傍点]からも路傍の人以外に、何でもありはしない。
 あんなハガキ一本で来ると云う速達、それにあっちの人はもうかなりな年だし、私は歯がズキズキする程胸さわがしくなってしまった。
 夜――。霰まじりの雪が降りだした。
 女達はまだ帰えって来ない。
 雪を浴びた林檎の果実籠をさげて、ヴァニティケースをくれた男来る。神様よ笑わないで下さい。私の本能なんてこんなに汚れたものではないのです。私は沈黙って両手を火鉢にかざしていた。
「いゝ部屋にいるんだね。」
 此男は、まるで妾の家へでもやって来たかの如く、オーヴァをぬぐと、近々と顔をさしよせて
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