の爺さんに断わって、家へ入れて貰う。古呆て妖怪じみた長火鉢の中には、突きさした煙草の吸殻が、しぶき[#「しぶき」に傍点]のように見えた。
 壁に積んである、沢山の本を見ていると、なぜか、舌に※[#「さんずい+垂」、236−7]が湧いて、此書籍の堆積が妙に私をゆうわく[#「ゆうわく」に傍点]してしまった。
 どれを見ても、カクテール製法の本ばかり、一冊売ったらどの位になるかしら、支那蕎麦[#「支那蕎麦」に傍点]に、てん丼[#「てん丼」に傍点]に、ごもく寿司[#「ごもく寿司」に傍点]、盗んで、すいて[#「すいて」に傍点]いる腹を満たす事は、悪い事ではないように思えた。
 火のない長火鉢に、両手をかざしていると、その本の群立が、大きい目玉をグリグリさせて、私を笑っているように見える。障子の破れが奇妙な風の唄をうたった。

 あゝ結局は、硝子一重さきのものだ。果てしもなく砂に溺れた私の食慾は、風のビンビン吹きまくる公園のベンチに転ろがるより仕ようがない。
 へゝッ! 兎に角、二々が四だ。弐銭銅貨が、すばらしく肥え太ったメン鶏にでも生れかわってくれないかぎり、私の胃のふ[#「胃のふ」に傍点]は永
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