彼女が、断りもしないで私の蚊帳へもぐり込むと、大きい息をついて、畳に耳をつけた。
「随分人をなめて[#「なめて」に傍点]いるわね、旦那さんかえって来たら皆云ってやるから、私よか十も下なくせに、ませ[#「ませ」に傍点]ているわね……。」
 ガードを省線が、滝のような音をたてゝ通る。

 一度も縁づいた事のない彼女が、嫉妬《ねたみ》がましい息づかいで、まるで夢遊病者のような狂体を演じようとしている。
「兄さんかも知れなくってよ。」
「兄さんだって、一ツ蚊帳には寝ないや。」
 何か淋しい血のようなものが胸に込み上げて来た。
「瞳が痛いから電気消しますよ。」
 彼女はフンゼンとして沈黙って出て行くと、やがて梯子段をトントン降りて行った。
「私達は貴方を主人にたのまれたのですよ。こんな事知れていゝのですか!」
 切れ切れに、こんな言葉が耳にはいる。
 一度も結婚しないと云う事は、あんなににも強く云えるものか……私は蒲団を顔へずり上げて固く瞼をとじた。

 七月×日
 ――ビヤウキスグカヘレタノム
 母よりの電報。
 本当かも知れないが、嘘かも知れない。だが嘘の云えるような母ではない。出社前なので
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