マイは昨日もかっぽれ[#「かっぽれ」に傍点]今日もかっぽれ[#「かっぽれ」に傍点]だ。
生きる事が実際退屈になった。
こんな処で働いていると、荒さんで荒さんで、私は万引でもしたくなる。女馬賊にでもなりたくなる。
インバイにでもなりたくなる。
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若い姉さんなぜ泣くの
薄情男が恋ひしいの……
[#ここで字下げ終わり]
誰も彼も、誰も彼も、ワッハ! ワッハ! あゝ地球よパンパンと真二つになれッ、私を嘲笑っている顔が幾つもうようよしてる。
「キングオブキングを十杯飲んでごらん、拾円のかけだ!」
どっかの呑気坊主が、厭にキンキラ顔を光らせて、いれずみ[#「いれずみ」に傍点]のような拾円札を、ピラリッとテーブルに吸いつかせた。
「何でもない事だ!」
私はあさましい姿を白々と電気の下に晒して、そのウイスキーを十杯けろりと呑み干した。
キンキラ坊主は呆然と私を見ていたが、負けおしみくさい笑いを浮べて、おうよう[#「おうよう」に傍点]に消えてしまった。
喜んだのはカフェーの主人ばかり、へえへえ、一杯一円のキングオブを十杯もあの娘が呑んでくれたんですからね……
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