電車通りへいそいで行ったから、どうしたのかと、思ってたら、帰って来て、水野さん、女湯をあけたんですって、そしたら番台でこっちは女湯ですよッ! て言ったってさ、そしたら、あゝ病院とまちがえましたってじっとしてたら、丁度あんたが、裸になった処だって、水野さんそれゃあ大喜びなの……。」
「へん! 随分助平な話ね。」
私はやけに頬紅をはくと、大学生は薄いコンニャクのような手を合わせて、
「怒った? かんにんしてね!」
裸が見たけりゃあ、お天陽様の下に真裸で転って見せるよッ! とよっぽど、吐鳴ってやりたかった。
一晩中気分が重っくるしくって、私はうで[#「うで」に傍点]卵を七ツ八ツパッチンパッチンテーブルへぶっつけてわった。
十一月×日
秋刀魚を焼く匂いは季節の呼び声だ。
夕方になると、廓の中は今日も秋刀魚の臭い、お女郎は毎日秋刀魚じゃあ、体中うろこ[#「うろこ」に傍点]が浮いてくるだろう……
夜霧が白い白い、電信柱の細っこい姿が針のように影を引いて、のれんの外にたって、ゴウゴウ走って行く電車を見ていると、なぜかうらやましくなって鼻の中がジンと熱くなる。
蓄音器のこわれたゼン
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