も事件がないようだ。買いたいものがぶらさがっている。
私は桃割の髪をかしげて、電車のガラス窓でなおした。
本村町で降りると、邸町になった露路の奥にそのうちがあった。
「御めん下さい。」
大きな家だな、こんなでかい家の助手になれるか知ら……、何度もかえろうかと思いながら、ぼんやり立ちつくした。
「貴女派出婦さん! 派出婦会から、何時に出たって電話がかゝって来たのに、おそいので、坊ちゃん怒ってらっしゃるわ。」
私が通されたのは、洋風なせまい応接室。
壁には、色の褪せたミレーの晩鐘の口絵のようなのが張ってあった。面白くもない部屋だ。腰掛けは得たいが知れない程ブクブクしていた。
「お待たせしました。」
何でも此男の父親は日本橋で薬屋をしているとかで、私の仕事は薬の見本の整理で、わけのない事だった。
「でもそのうち、僕の方の仕事が急がしくなると、清書してもらいたいのですがね、それに一週間程したら、三浦三崎の方へ研究に行くんですが来てくれますか。」
此男は廿四五かな、私は若い男の年が、ちっとも判らないので、じっと脊の高いその人の顔を見ていた。
「いっそ派出婦の方を止して、毎日来ません
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