にすがすがしい朝の盛塩を見ていると、女学生の群にけとばされて、さっと散っては山がずるずるとひくくなって行く。

 私が此家に来て二週間、もらい[#「もらい」に傍点]はかなりある。
 朋輩が二人。
 お初ちゃんと言う女は、名のように初々しくて、銀杏返しのよく似合うほんとに可愛いこだった。

「私は四谷で生れたのだけど、十二の時、よその叔父さんに連れられて、満洲にさらわれて行ったのよ。私芸者屋にじき売られたから、その叔父さんの顔もじき忘れっちまったけど……私そこの桃千代と云う娘と、よく広いつるつるした廊下をすべりっこしたわ、まるで鏡みたいだった。
 内地から芝居が来ると、毛布をかぶって、長靴をはいて見にいったわ、土が凍ってしまうと、下駄で歩けるのよ、だけどお風呂から上ると、鬢の毛がピンとして、おかしいわよ。
 私六年ばかりいたけど、満洲の新聞社の人に連れて帰ってもらったのよ。」

 客の飲み食いして行った後の、テーブルにこぼれた酒で字を書きながら、可愛らしいお初ちゃんは、重たい口で、こんな事を云った。
 も一人私より一日早くはいったお君さんは脊の高い母性的な、気立のいゝ女だった。

 廓の
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