りて来る灰をはらった。
 私は四畳半の蚊帳をたゝむと、崩れかけた下宿へ走った。宿の人達は、ゴソゴソ荷物を片づけていた。
「林さん大丈夫ですか、一人で……。」
 皆が心配してくれるのを振りきって、私は木綿の風呂敷を一枚持って、モウモウとした道へ出た。
 根津の電車通りは、みゝず[#「みゝず」に傍点]のようにかぼそく野宿の群がつらなっていた。
 青年は真黒に群れた人波をわけて、くるくる黒い洋傘をまわして歩いている。

 私は下宿に、昨夜間代を払わなかった事を何か奇蹟のように思えた。お天陽様相手に行動をしている、お父さん達の事を思うと、此三拾円ばかりの月給も、おろそかにつかえない。
 途中壱升壱円の米を二升買う。
 外に朝日五ツ。
 干しうどん[#「うどん」に傍点]のくず[#「くず」に傍点]五拾銭買う。
 お母さん達が、どんなに喜こんでくれるだろう。じりじりした暑さの中に、日傘のない私は、長い青年の影をふんで歩いた。
「よくもこんなに焼けたもんだ!」
 私は二升の米を肩を替えながら脊負って歩くので、はつか[#「はつか」に傍点]鼠くさい体臭がムンムンして厭だった。

「すいとん[#「すいとん」
前へ 次へ
全228ページ中114ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング