イ……。

信州の山深い古里を持つ
かの女も
茶色のマントをふくらませ
いつもの白い歯で叫んだのです。
――明日は明日の風が吹くから、ありったけのぜにで買って送りましょう……
小僧さんの持った木箱には
さつまあげ、鮭のごまふり、鯛の飴干し

二人は同じような笑いを感受しあって
日本橋に立ちました。

日本橋! 日本橋!
日本橋はよいところ
白い鴎が飛んでいた。

二人はなぜか淋しく手を握りあって歩いたのです。
ガラスのように固い空気なんて突き破って行こう
二人はどん底[#「どん底」に傍点]を唄いながら
気ぜわしい街ではじけるように笑いました。
[#ここで字下げ終わり]

 私は食物の持つ、なつかしい木箱の匂いを胸に抱いて、国へのお歳暮を楽しんだ。

 十二月×日
「こんやは、庄野さんが遊びに来てよ、ひょっとすると、貴女の詩集位いは出してくれるかもわからない、福岡日々の社長の息子ですってよ……。」
 たいさんと二人でいつもの夕飯を食べ終ると、二人は隣りの部屋の、軍人上りの株屋さんだと云う、子持ちの夫婦者のところへ、まねかれて行く。
「貴女達は呑気そうですね。」
 たいさんも私もニヤニヤ笑
前へ 次へ
全228ページ中109ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング