んの純情が十分の一でもあったら……時ちゃんはスヤスヤいびき[#「いびき」に傍点]をかいている。
「では僕帰えりますから、明日の夕方にでも来るように云って下さいませんか。」
 もう二時すぎである。青年はコトコト路を鳴らして帰えって行った。たい子さんは、あの人との子供の骨を転々持って歩いていたが、どうしたろう、折れた鏝が散乱している。

 十二月×日
 雨がざんざん降っている。
 夕方時ちゃんと二人で風呂に行く。
 帰えって髪をときつけていると、飯田さん来る。
 私は袖のほころびを縫いながら、カフェーでおぼえた唄を フッ[#「フッ」に傍点]とうたいたくなった。
 あゝ厭になってしまう。
 別れてまでノコノコ女のそばへ来る位なら飯田さんもおかしい人だなあ……。

「こんなに雨が降るのに行くの……。」
 たい子さんは佗しそうに、ふところ[#「ふところ」に傍点]手をして私達を見た。

 浅草へ来た時は夕方だった。
 ざんざ降りの中を一軒一軒、時ちゃんの住み込みよさそうな家をさがして、きまったのはカフェー世界と云う家だった。
「芙美ちゃんどっかへ引越す時は知らしてね、たい子さんによろしく云ってね。
前へ 次へ
全228ページ中105ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング