ることだと思います。秋元氏の訳された作家プウシキンのうぐいすも、大変私をシゲキしてくれます。「くらく、しずけき真夜中を、園にして薔薇の色香をたたえつつ、鴬うたう。されども薔薇は、心ある鳥の歌に答えせず。うつらうつらと夢心地、たのしき歌を聞きつつも、ただにまどろむ。同じからずや、詩人《うたびと》よ、君がさだめのうぐいすに……」もうこんなのを読みますと、仕事々々と思います。日本の犀星氏、春夫氏も大事にしてあげなくてはいけないと思ったりします。
 私はいま、七人の家族で暮らしています。昔のように、食べることにはどうやら困らなくなりましたが、これからが大変だと思います。本当の文学的自叙伝もこれから生れて来るのだと考えております。



底本:「林芙美子随筆集」岩波文庫、岩波書店
   2003(平成15)年2月14日第1刷発行
   2003(平成15)年3月5日第2刷発行
初出:「改造 昭和10年8月号」
   1935(昭和10)年8月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:林 幸雄
校正:noriko saito

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