ぶと、裾《すそ》を股《また》にはさんで、キュッと後にまわして見せた。
男の子は笑っていた。
白壁の並んだ肥料倉庫の広場には針のように光った干魚が山のように盛《も》り上げてあった。
その広場を囲んで、露店のうどん屋が鳥のように並んで、仲士達が立ったまま、つるつるとうどんを啜っていた。
露店の硝子箱《ガラスばこ》には、煎餅《せんべい》や、天麩羅がうまそうであった。私は硝子箱に凭《もた》れて、煎餅と天麩羅をじっと覗《のぞ》いた。硝子箱の肌《はだ》には霧がかかっていた。
「どこの子なア、そこへ凭れちゃいけんがのう!」
乳房《ちぶさ》を出した女が赤《あか》ん坊《ぼう》の鼻汁《はなじる》を啜りながら私を叱《しか》った。
4 山の朱い寺の塔《とう》に灯がとぼった。島の背中から鰯雲《いわしぐも》が湧《わ》いて、私は唄《うた》をうたいながら、波止場の方へ歩いた。
桟橋には灯がついたのか、長い竿《さお》の先きに籠《かご》をつけた物売りが、白い汽船の船腹をかこんで声高く叫《さけ》んでいた。
母は待合所の方を見上げながら、桟橋の荷物の上に凭れていた。
「何ばしよったと、お父さん見て来たとか
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