?」
「うん、見て来た! 山のごツ売れよった」
「ほんまな?」
「ほんま!」
私の腰に、また紫の包みをくくりつけてくれながら、母の眼は嬉《うれ》し気《げ》であった。
「ぬくう[#「ぬくう」に傍点]なった、風がぬるぬるしよる」
「小便《こよう》がしたか」
「かまうこたなか、そこへせいよ」
桟橋の下にはたくさん藻《も》や塵芥《じんかい》が浮《う》いていた。その藻や塵芥の下を潜《くぐ》って影《かげ》のような魚がヒラヒラ動いている。帰って来た船が鳩《はと》のように胸をふくらませた。その船の吃水線《きっすいせん》に潮が盛り上ると、空には薄い月が出た。
「馬の小便《こよう》のごつある」
「ほんでも、長いこと、きばっとった[#「きばっとった」に傍点]とじゃもの」
私は、あんまり長い小便にあいそをつかしながら、うんと力んで自分の股間《こかん》を覗いてみた。白いプクプクした小山の向うに、空と船が逆《さか》さに写っていた。私は首筋が痛くなるほど身を曲《かが》めた。白い小山の向うから霧を散らした尿《いばり》が、キラキラ光って桟橋をぬらしている。
「何しよるとじゃろ、墜《お》ちたら知らんぞ、ほら、お父さ
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