んが戻《もど》って来よるが」
「ほんまか?」
「ほんまよ」
股間を心地《ここち》よく海風が吹いた。
「くたびれなはったろう?」
母がこう叫ぶと、父は手拭で頭をふきながら、雁木の上の方から、私達を呼んだ。
「うどんでも食わんか?」
私は母の両手を握って振った。
「嬉しか! お父さん、山のごつ売ったとじゃろなア…………」
私達三人は、露店のバンコ[#「バンコ」に傍点]に腰をかけて、うどんを食べた。私の丼《どんぶり》の中には三角の油揚が這入っていた。
「どうしてお父さんのも、おッ母さんのも、狐《きつね》がはいっとらんと?」
「やかましいか! 子供は黙《だま》って食うがまし[#「まし」に傍点]……」
私は一片の油揚を父の丼の中へ投げ入れてニヤッと笑った。父は甘美《うま》そうにそれを食った。
「珍《めずら》しかとじゃろな、二三日|泊《とま》って見たらどうかな」
「初め、癈兵《はいへい》じゃろう云いよったが、風琴を鳴らして、ハイカラじゃ云う者もあった」
「ほうな、勇ましか曲をひとつふたつ、聴《き》かしてやるとよかったに……」
私は、残ったうどんの汁に、湯をゆらゆらついで長いこと乳のよう
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