に吸った。
町には輪のように灯がついた。市場が近いのか、頭の上に平たい桶《おけ》を乗せた魚売りの女達が、「ばんより[#「ばんより」に傍点]! ばんより[#「ばんより」に傍点]はいりゃんせんか」と呼び売りしながら通って行く。
「こりゃ、まあ、面白かところじゃ、汽車で見たりゃ、寺がおそろしく多かったが、漁師も多かもん、薬も売れようたい」
「ほんに、おかしか」
父は、白い銭をたくさん数えて母に渡した。
「のう……章魚の足が食いたかア」
「また、あげんこツ! お父さんな、怒《おこ》んなさって、風琴ば海さ捨てる云いなはるばい」
「また、何、ぐず[#「ぐず」に傍点]っちょるとか!」
父は、豆手帳の背中から鉛筆《えんぴつ》を抜《ぬ》いて、薬箱の中と照し合せていた。
5 夜になると、夜桜を見る人で山の上は群った蛾《が》のように賑《にぎ》わった。私達は、駅に近い線路ぎわのはたご[#「はたご」に傍点]に落ちついて、汗ばんだまま腹這っていた。
「こりゃもう、働きどう[#「働きどう」に傍点]の多い町らしいぞ、桜を見ようとてお前、どこの町であぎゃん賑おうとったか?」
「狂人どう[#「狂人どう」に傍点
前へ
次へ
全34ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング