た。私は占領《せんりょう》された風琴の音を聞くと、たまらなくなって、群集の足をかきわけた。
「ええ――子宮、血の道には、このオイチニイ[#「オイチニイ」に傍点]の薬ほど効くものはござりませぬ」
 私は材木の上に群れた子供達を押しのけると、風琴を引き寄せて肩に掛けた。
「何しよっと! わしがとじゃけに……」
 子供達は、断髪《だんぱつ》にしている私の男の子のような姿を見ると、
「散剪《ざんぎ》り、散剪り、男おなご[#「男おなご」に傍点]やアい!」と囃《はや》したてた。
 父は古ぼけた軍人|帽子《ぼうし》を、ちょいとなおして、振りかえって私を見た。
「邪魔《じゃま》しよっとじゃなか! 早《は》よウおッ母さんのところへ、いんじょれ!」
 父の眼が悲しげであった。
 子供達は、また蠅《はえ》のように風琴のそばに群れて白い鍵《キイ》を押した。私は材木の上を縄渡《なわわた》りのようにタッタッと走ると、どこかの町で見た曲芸の娘のような手振りで腰《こし》を揉《も》んだ。
「帯がとけとるどウ」
 竹馬を肩にかついだ男の子が私を指差した。
「ほんま?」
 私はほどけた[#「ほどけた」に傍点]帯を腹の上で結
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