《うま》かもの食いよっとじゃもの、あぎゃん腐《くさ》ったバナナば、恩にきせよる……」
「この子は、嫁《よめ》様にもなる年頃《としごろ》で、食うこツばかり云いよる」
「ぴんた[#「ぴんた」に傍点]ば殴るけん、ほら、鼻血が出つろうが……」
母は合財袋の中からセルロイドの櫛《くし》を出して、私の髪《かみ》をなでつけた。私の房々した髪は櫛の歯があたるたびに、パラパラ音をたてて空へ舞《ま》い上った。
「わんわんして、火がつきゃ燃えつきそうな頭じゃ」
櫛の歯をハーモニカのように口にこすって、唾《つば》をつけると、母は私の額の上の捲毛《まきげ》をなでつけて云った。
「お父さんが商売があってみい、何でも買《こ》うてやるがの……」
3 私は背中の荷物を降ろしてもらった。
紫《むらさき》の風呂敷包みの中には、絵本や、水彩《すいさい》絵具や、運針|縫《ぬ》いがはいっていた。
「風琴ばかり鳴らしよるが、商いがあったとじゃろか、行ってみい!」
私は桟橋《さんばし》を駆《か》け上って、坂になった町の方へ行った。
町が狭隘《せま》いせいか、犬まで大きく見える。町の屋根の上には、天幕がゆれていて、桜《
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