う言葉を思い出したので、遠くの方から、校長の後へついて行った。
「道草食わずと、早よウ歩かんか!」
校長は振り返って私を叱った。窓の外のポンプ井戸の水溜《みずたま》りで、何かカロカロ……鳴いていた。
雨戸のような歪《ゆが》んだ扉《とびら》を開けると、ワアンと子供達の息が私にかかった。(女子六年 イ組)と、黒板の上に札《ふだ》が下っていた。私は五年を半分飛ばして六年にあがる事が出来た。ちょっと不安であった。
9 長い間雨が続いた。
私はだんだん学校へ行く事が厭《いや》になった。学校に馴れると、子供達は、寄ってたかって私の事を「オイチニイの新馬鹿大将の娘じゃ」と、云った。
私はチャップリンの新馬鹿大将と、父の姿とは、似つかないものだと思っていた。それ故、私は、いつか、父にその話をしようと思ったが、父は長い雨で腐り切っていた。
黄色い粟飯《あわめし》が続いた。私は飯を食べるごとに、厩《うまや》を聯想《れんそう》しなければならなかった。私は学校では、弁当を食べなかった。弁当の時間は唱歌室にはいってオルガンを鳴らした。私は、父の風琴の譜《ふ》で、オルガンを上手に弾《ひ》いた。
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