ックの中へ、帽子や土産物を投げいれて、臺所に二本並んでゐるビールを座敷へ持つて來て、一人で栓をぬいてごくごく飮んだ。なまぬるくて美味くはなかつたけれど、哀しみを誘ふやうなビールの味は、廣太郎をいやがうへにも感傷的にしてしまふ。
整理好きのふじ子が、こんなに部屋の中をとりみだしてゐるのは、自分の出たあと怒つて、子供を連れて姫路へ行つたのかも知れないとおもつた。姫路へ歸つても、ふじ子の實家をたづねてやらなかつた冷さが悔いられたが、いまになつては仕方もないことだと、廣太郎は雨の中を、郵便局まで電報を打ちに行き、歸りは酒屋から酒をとどけさせるやうにして家へ戻つて來た。疊はしめつてゐてかびくさく、床の間の百合の花は、枯れてちりちりに銹びた色をしてゐた。
翌日、ふじ子の實家から、こちらには戻つてゐないが、當分、東京へは歸らぬだらう、母子共健在故安心してくれと云つた返電が來た。
廣太郎は、いつたい、ふじ子は何處へ行つたのだらうかと考へた。
雨は昨日から降りつゞいてゐる。
廣太郎は、子供をかゝへた何の取柄もない女が、いつたい二週間以上もどこをうろついてゐるのだらうと思つた。ひよいとしたら自
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