私のもの、お序の折に、姫路へ送り戻しておいて下さいませ。くれぐれもお大切に祈りあげます。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から5字上げ]ふじ子 拜
    廣太郎 樣

 手紙の中へ二枚の小さい寫眞が入れてあつた。水平線の見える海邊で、ふじ子がハイカラな海水着を着て子供たちとたはむれてゐるのと、籐椅子に腰をかけて健吉と二人ですましてゐる、ふじ子の若々しい寫眞が、廣太郎の眼に燒きつくやうに寫つた。
 若い芽をおもひきり發芽させたやうなみちがへるばかり美しくなつた妻の寫眞を、廣太郎はのぼせるやうななつかしさで、ぢつと黄昏の縁側で眺めてゐた。



底本:「惡鬪」中央公論社
   1940(昭和15)年4月17日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※片仮名の拗音、促音を小書きするか否かは、底本通りとしました。
入力:林 幸雄
校正:花田泰治郎
ファイル作成:
2005年8月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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