が來て、湖がうすかわをかぶったように、少しずつ凍っていくと、ペットはさびしさで耐えられなくなって、毎晩、湖畔に降りては、水に向かってほえたてていた。走ったりほえたりすると、すこしばかりからだが熱くなるから……。
 時々、お天氣のいい日は、小鳥を追って、それをペットは、モオリスさんの別莊に運んで、ぽりぽりと骨までかじって食べた。捨てられた赤さびた鑵詰の匂いをかぐと、モオリスさんの匂いがしてなつかしかった。
 雪が深くなるにつれ、湖畔のぐるりは白いびょうぶ[#「びょうぶ」に傍点]をたてかけたように、樹木も家も深い雪に埋もれてしまう。
 今日も、夕方からはげしい吹雪で、じっとしていると、ペットはからだじゅうが凍りそうなので、湖畔まで走っていき、凍った水の上を見て、ヴオウ、ヴオウ、ヴオウとほえたてていた。まわりはすっかりくらくなっているのに、雪はでんぷんをまきちらしたようにすさまじく吹きあれている。
 ペットは朝から何も食べてはいなかった。晝ごろ、大久保村まで食物をあさってみたけれども、何も食べものがないので、いつものように野鼠を追ってみたけれど、雪が深いので野鼠も出てはいない。
 湖畔に出て
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