、ペットはどうにか、食物をあさって、その日その日を暮らしていた。
 秋の終りごろ、野尻の別莊地に、みなれないジープが一臺來て、アメリカの兵隊さんが、湖畔で船を出して遊んでいた。ペットは、久しぶりに、モオリスさんによく似たひとにめぐりあったような氣がして、ジープのそばへ走っていった。ジープに殘っていた兵隊さんが、ペットを見ると口笛を吹いて、ビスケットを投げてくれた。
 ペットは、はげしいうれしさで、その兵隊さんの手へ飛びついていった。何年ぶりかで、ペットはおいしいビスケットをもらって、ちぎれるようにしっぽを振って、兵隊さんにじゃれていた。
 ペットはとてもうれしかった。
 やがて、日暮れがた、ジープは、船あそびの兵隊さんをのせて町の方へ戻っていった。
 ペットはジープが見えなくなるまでそのあとを追って、走っていったけれども、とうとう、ジープを見失ってしまってぼんやりしてしまった。ペットは、また、モオリスさんのいない、ポーチにもどらなければならないと思うと、さびしくてさびしくて悲しくなって來る。
 いつの間にかまた冬がやって來て、夜分なんか、寒くて、ペットは、ポーチのごみくずのなかで何度と
前へ 次へ
全8ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング