はこれから男ざかりだから愉しみだわね」「君もまだまだじやないの?」「私? 私はもう駄目。このまゝしぼんでゆくきり。二三年したら、田舎へ行つて暮したいのよ」「ぼろぼろになるまで長生きして、浮気するつて云つたのは嘘?」「あら、そんな事、私云ひませんよ。私つて、思ひ出に生きてる女なのよ。只、それだけ。いゝお友達になりませうね」「逃げてるね。女学生みたいな事を云ひなさンなよ。えゝ。思ひ出だのつてものはどうでもいゝな」「さうかしら……だつて、柴又へ行つたの云ひ出したの貴方よ」田部はまた膝をぶるぶるとせつかちにゆすぶつた。金が欲しい。金。何とかして、只、五万円でも、きんに借りたいのだ。「本当に都合つかないかねえ。 店を担保に置いても駄目?」「あら、また、お金の話? そンな事私におつしやつても駄目よ。私、一銭もないのよ。そンなお金持ちも知らないし、あるやうでないのが金ぢやないの。私、貴方に借りたい位だわ……」「そりやァうまくゆけば、うんと君に持つて来るさ。君は、忘れられない人だもの、……」「もう沢山よ、そンなおせじは……お金の話しないつて云つたでせう?」わあつと四囲いちめん水つぽい秋の夜風が吹きまく
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