。新らしく出来た運動場には桜の並木にかこまれて、生徒たちがバスケット・ボールをして遊んでいた。
 帰りは神戸へも大阪へも寄らず京都へ降りて西竹へ行った。人形が出来て来ていた。幾月か空想していた人形を前にすると、あんまり立派なので(これは大変だな)と思った。
 持って来たお波さんは、一人ではこわれてしまうから、わたしも東京へお供しましょうと云ってくれた。人形はびんつけで髪を結《ゆ》っていた。半襟《はんえり》に梅の模様があるのは、野崎村の久松《ひさまつ》の家に梅の木のあるのをたより[#「たより」に傍点]にしたのだからと云うことだった。手は踊りのように自由に動く。まだ娘だから喜怒哀楽がないのだと云って、お染《そめ》の人形は、まなじり[#「まなじり」に傍点]をすずやかにあけて、表情のない顔をしていた。あんまり人形が美しいので、成瀬無極《なるせむきょく》氏や山田一夫氏にも宿へ来て貰って観て貰った。雨が降っていた。肩さきがぬれるほどな細かな雨だった
 三人分の三等寝台を買いに行って貰ったが、一つも買えなかったので、わたしたちは空《す》いていそうな遅い汽車に乗った。坐ったなりで身動きも出来ないほどのこみかただったが、途中名古屋あたりで一番上の寝台が空《あ》いているのをボーイが知らせて来たのでその寝台に人形を寝かせて帰った。人形の寝ている寝台の下は五ツともみんな男のひとばかり横になっていた。



底本:「林芙美子随筆集」岩波文庫、岩波書店
   2003(平成15)年2月14日第1刷発行
   2003(平成15)年3月5日第2刷発行
入力:林 幸雄
校正:noriko saito
2004年8月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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