叩いてゐます。
「まア、はひつて一杯召し上るベア」
お母さんが酒でも燗徳利に入れてゐるのでせう。ドクドク音がしています[#「しています」は底本では「してします」]。
いつたい、こんな貧しい村はどうなつて行くのでせうか?
写真二枚入れておきます。
すつかり山の中の女になつてゐるでせう。この写真については面白い話があります。村長さんの家の、長男氏が焼いてくれたのですが、これは×大学生で、実に厭な部類の男です。二枚写真を焼いてもらつた為に、毎日夜になると私の部屋の前で口笛を吹きます。この谷間の村では、男が女を呼ぶのに口笛でもつて合図をするのでせうか、あんまりやかましいので、「もう沢山ですよツ!」つて呶鳴つてやるんです。
だつてその口笛が、守るも攻めるもくろがねの‥‥つて云ふのや、俺とお前はかれ芒きの唄なんです。ね、厭になつてしまひますわ。折角の美しい谷間の風景も、このダブダブな神経を持つた青年がこはしてゆきます。
お臍までとゞくやうなカレツヂ・ネクタイをして、角帽なんぞ被つた姿で、村の娘を釣るといふのですから、大したものです。
まるで、美文書簡集を、まる写しにしたやうな手紙をも
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