したの、でも勇兄さんのやうにニヒリストぢやなささうです。
昨夜、娘さんは川下の曼陀羅寺へお嫁入りして行きました。麩のやうなかまぼこや、きんとん、鮭の焼いたの、こんなものがお夕食につきました。お嫁さんは紅い風呂敷包を腰にくくつて、お嫁入り先まで歩いて行くのです。荷物は家の馬に乗せて、お婆さんも時代色のついた古風な紋付を着て、荷物と一緒に馬に乗つて、まるで昔の道中です。提灯が見えなくなるまで、皆で軒下に立つてゐました。
「いやもう、娘といふものは産むでないよ」
娘のお母さんはさう言つて、涙をホロホロこぼしてゐました。
先生は離れに大の字に寝転んで、しきりに弟息子の名を呼んでゐました。
「何だね、先生?」
「姉ちやはもう見えねえか?」
「うん、もう行つたでなア」
私は妙に悲しい気持でした。先生の心が判るやうで‥‥とてもお通夜のやうに淋しい晩でした。
野風呂にはひつてゐると、酔つぱらひの村長さんが大きい声を張りあげて、
「かんなめ[#「かんなめ」に傍点]さんや、娘さ芽出度かつたなア、うちも末娘が此間のこと、嫁入つたが、親といふものはたいていな骨折りぢや」
お父つあんは沈黙つて煙管を
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