やうに黙りこむのであつたが、今度はかへつて、亡くなつたお神さんと、毎晩こんな風に寝てゐたのだらうと、急に、背筋がぞくぞくしてしまつて、「起きてゝよ、ねえ」と云つて、嘉吉の枕を引つぱるのであつた。枕を引つぱられると、嘉吉も、そうそう寝た真以は出来ず、××××××で惰勢[#「惰勢」は底本では「楕勢」]に墜ちてしまふのであつたが、不思議に厭になつて来る女ではなかつた。寝物語りに他の男の事を考へてゐる時があるのよ、とまるで娼婦のやうなことを平気で云つたが、死んだ女房のやうに、とぼけて寝てしまふやうなことはしなかつたし、根が、小料理屋へ努めてゐた女なので、あけすけなのでもあらう、世の常の女房のやうに、×××××を時雨のやうに味気ないものだとは云はせないで、嘉吉に対して、まるでもう、野山でたわむれる獣か何かのやうなふるまひなのである。どこから、そのやうな力が湧いて来るのか、日中、嘉吉は襯衣箱や、鬼足袋の上にはたきをあてながら、不図、そんなことを凝つと考へてゐる折があつた。
なか子が家へ入りこんで二年目位から、店のなかは砂が乾いてしまつたやうに品物が一つならべの状態で、ハンカチも半ダースと同じも
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