さへも当つてみやうと、眼を皿のやうにして、小さい金融会社を、あつちこつちと探がしてみるのであつた。あせればあせつてゆく程、砂地がずりさがつて行くやうに、何も彼も風にもつてゆかれて家の中ががらんとなつて行く。――店の中へ何も並べるものがなくなると、浅草あたりの化粧品問屋から、安いポマードや水白粉のやうなものを仕入れて来て、一つならべに陳列に出しておいたが、結局そんなことは、嘉吉のみえのやうなもので、家賃も一ヶ年あまりもとゞこほり、しまひには家主のお神さんが店の先きで泣いてしまふほどの詰りやうでどうにも首がまはらなくなつてしまつたのである。
唇に蜂蜜を塗り、舌の先きで丁寧に嘗めまはしてゐたなか子は思ひ出したやうに立ちあがると、押入れから褞袍を出して嘉吉の裾へかけてやつた。嘉吉は、もう、女からわかればなしを持ちかけられるやうでは、男も下の下だわいと、瞼を閉じたまゝ不吉なことばかりを、あれこれと考へ耽けつてゐた。
「だつて、さつきの話ね、二人ともさばさばしてるンぢやないのさ、こんな店なんて未練なンか持たない方がいゝわ。第一、ハンカチ一つ買ふんだつて、デパートで買ひたがるンですもの、しかも、
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