朝御飯
林芙美子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)倫敦《ロンドン》
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 倫敦《ロンドン》で二ヶ月ばかり下宿住いをしたことがあるけれど、二ヶ月のあいだじゅう朝御飯が同じ献立だったのにはびっくりしてしまった。オートミール、ハムエッグス、ベーコン、紅茶、さすがに閉口してしまって、いまだにハムエッグスとベーコンを見ると胸がつかえそうになる時がある。
 日本でも三百六十五日朝々味噌汁が絶えない風習だ。英国の朝食と云うのは、日本の味噌汁みたいに、三百六十五日ハムエッグスがつきものなのだろうか。但《ただ》し倫敦のオートミールはなかなかうまいと思った。熱いうちにバタを溶いて食塩で食べたり、マアマレイドで味つけしたり、砂糖とミルクを混ぜて食べたりしたものだった。
 巴里《パリ》では、朝々、近くのキャフェで三日月《クロバチン》パンの焼きたてに、香ばしいコオフィを私は愉《たの》しみにしていたものである。――朝御飯を食べすぎると、一日じゅう頭や胃が重苦しい感じなので、巴里的な朝飯は、一番私たちにはいいような気がする。
 淹《い》れたてのコオフィ一杯で時々朝
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