飯ぬきにする時があるが、たいていは、紅茶にパンに野菜などの方が好き。このごろだったら、胡瓜《きゅうり》をふんだんに食べる。胡瓜を薄く刻《き》ざんで、濃い塩水につけて洗っておく。それをバタを塗ったパンに挟んで紅茶を添える。紅茶にはミルクなど入れないで、ウイスキーか葡萄酒を一、二滴まぜる。私にとってこれは無上のブレック・ファストです。
 徹夜をして頭がモウロウとしている時は、歯を磨いたあと、冷蔵庫から冷したウイスキーを出して、小さいコップに一杯。一日が驚くほど活気を呈して来る。とくに真夏の朝、食事のいけぬ時に妙である。
 夏の朝々は、私は色々と風変りな朝食を愉しむ。「飯」を食べる場合は、焚《た》きたての熱いのに、梅干をのせて、冷水をかけて食べるのも好き。春夏秋冬、焚きたてのキリキリ飯はうまいものです。飯は寝てる飯より、立ってる飯、つやのある飯、穴ぼこのある飯はきらい。子供の寝姿のように、ふっくり盛りあがって焚けてる飯を、櫃《ひつ》によそう時は、何とも云えない。味噌汁は煙草《たばこ》のみのひとにはいいが、私のうちでは、一ヶ月のうち、まず十日位しかつくらない。あとはたいてい、野菜とパンと紅茶。
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