着物雑考
林芙美子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)袷《あわせ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)なりふり[#「なりふり」に傍点]を
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袷《あわせ》から単衣《ひとえ》に変るセルの代用に、私の娘の頃には、ところどころ赤のはいった紺絣《こんがすり》を着せられたものですが、あれはなかなかいいものだと思います。色の白いひとにも、色の黒いひとにも紺の絣と云うものはなかなかよく似合ったもので、五月頃の青葉になると、早く絣を着せてくれと私はよく母親へせがんだものでした。洗えば洗うほど紺地と白い絣がぱっと鮮かになって、それだけ青葉の季節を感じます。
昔、下谷《したや》の下宿にいました頃、下宿のお上《かみ》さんが、「あのひとは染《そめ》のいい絣を着ていたからいい家の息子に違いない」なぞと、部屋を見に来る学生のなりふり[#「なりふり」に傍点]を見てこう云っておりましたが、なるほど面白いなと思いました。
一口に紺絣と云っても染のいいのはなかなか高価でしたが、その頃は仕事も現在のようにラフ[#「ラフ」に傍点]でないせいか、たいして高価で
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